魔笛〜夜の女王の謎
最近《魔笛》の序曲やアリアを演奏する機会があり、いろいろな資料を読み返している。今読んでいるのは『オペラのイコノロジー』という、ありな書房が発刊しているシリーズ本。一般的な解説書とは少し変った視点で作品を捉えていて興味深い。10年前に買って読んだっきりだったけれど、今読んでみると、当初とは違った読み方、感じ方が出来てさらに面白い。
「イコノロジー」とは、美術作品が表している象徴的価値や、特定の時代の文化や世界観などの深い意味などを解明する学問で「図像解釈学」と訳される。このシリーズ本は、それをオペラで試みるというものだ。
「魔笛ってどんな作品?」と聞かれて一言で説明するのはとても難しい。
「ビールってどんな味?」と聞かれて、いろいろ説明することはできなくはないが、同時に「先ず飲んでみたら?」と素直に思う(笑)。
それと同じように「先ずは一度作品を観てみて!」と本当は言いたいところだけれど、MCをするとなると、そうもいかない・・・😱
この本のプロロークには次のように記されている。
疑似東洋風の舞台設定、神話的な大蛇、パントマイムをする動物たち、おどけた鳥人間、空中船に乗る童子、人間同士のきずな、「自由」「平等」「友愛」をめざす啓蒙主義、フリーメイソン(秘密結社)的な儀式、イタリア式アリア、民謡、バッハ風のフーガやコラール前奏曲といった実に雑多な要素を包含しながら、大掛かりな機械仕掛けによるスペクタルとともに、オペラは進行していく。(中略)作品全体のもたらす印象は、崇高であると同時に猥雑。(中略)常套的な「救出」劇は、第一幕で挫折におわり、第二幕はそれぞれが自律的「人間」へと脱皮する、いわば自己「救済」のドラマとなる。
魔笛を全く知らない人がこれを読んだら「なんじゃこりゃ~」の世界。
筆者はこう語る。
「謎」ゆえに観せられてしまうこの作品。メルヘン世界の類型的なキャラクターが、類型的なふるまいをしながら織りあげていく、支離滅裂なストーリーと、比類のない音楽。どこにもない時間と場所こそが、われわれの想像力を豊かに飛翔させてくれるだろう。
魔 笛 ―〈夜の女王〉の「謎」
目 次
プロローク ドイツ・オペラ《魔笛》
第1幕 異界からのメッセージ ―〈夜の女王〉
第2幕 啓蒙主義の理想とその影 ―ザラストロとモノスタートス
第3幕 魔法オペラか「啓蒙」の神話か ―タミーノ
第4幕 葦笛と魔法の鈴 ―「自然人」パパゲーノ
第5幕 エネルギーの中心点 ― パミーナ
第6幕 《魔笛》のウィーンとベルリン ―シンケルの舞台装置
エピローク 〈夜の女王〉の「謎」
本の帯では、次のように紹介されている。
このオペラを真面目に観ると、確かに多くの不可解な事柄、訳のわからない箇所が出てくるのだけど、この本は、それらの事柄を「イコノロジー」として読み解いていて、本当にユニークな《魔笛》論だ。
こちらは帯の裏↓
筆者は本の中で『虚構の世界にひたすら遊ぶことの楽しさ、そしてそこに現実世界のさまざまに変形した鏡像を発見する面白さを味わわせてくれる《魔笛》という作品は、劇場という壮大な「遊び」の空間へのまたとない「入門」になるであろう。』と語っている。
そういう見方もあるのか・・・。なるほど。
演奏するのは序曲だけ、アリア1曲だけ、という場合でも、オペラ全体を勉強しないと「全容」と「部分」の関係が分からないので、オペラ作品を取り上げる時は譜読みや準備に相当時間がかかります・・・。
でも、この作業は「大変」というよりも「感動」なのです。
作曲から230年経っても、まったく色褪せない面白さ。
音楽で人間を、世界を、宇宙を語ったモーツァルト。凄い!